中島大祐 Episode1:仕事を最優先した結果、ある日目覚めた場所は……。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

» 中島大祐 Episode1:仕事を最優先した結果、ある日目覚めた場所は……。

また、朝が巡ってきた。雨は降らなかった。よかった……。

朝日の昇る前に空は青くなるのだなあ。そんな事を思いながら、明るさに目を慣らしてゆく。
雨風どころか明るさを凌ぐ屋根もない場所で、それ以上眠ってはいられない。
体を起こし、軽く頭を振る。
人間の順応性には日々驚かされる。車止めを枕に眠る暮らしにもずいぶん慣れてしまった。
少し歩いてコインロッカーに、そしてネットカフェに。
シャワーを浴びる時間だけ利用して、寝床にしている駐車場裏のサロンに出勤する。

……逆か。
サロン裏の駐車場に僕が寝ているだけか。

原宿のサロンに自転車で通える範囲の物件は、どうがんばっても7万円が家賃の下限だった。
手取り12万円のうち7万円を家賃に使うために
残りの5万円で食費、光熱費、生活費をまかない、
切り詰めに切り詰めて……いや、無理だった。

ハサミがダメになれば買い換えなければ。練習用のウィッグもなかなかの出費になる。
二十歳で田舎から上京して掴んだ夢。
美容師という仕事に誇りを持っていた。仕事に関係する事に妥協はできなかった。
月に一度支払う家賃より先に日々こまごまと支払うお金が
5万円という上限をどうしても超えてしまう。

家賃の滞納が続いてしまった。
僕は追い出され、サロン裏の駐車場に寝起きする生活が始まった。

若さゆえなのか体が丈夫なのか、それとも仕事への誇りが人一倍だったのか。
そんな生活をしていても、仕事に支障は出なかった。出さなかった。
とはいえ、いつまでもこんな事は続けられない。
6個入りの卵を週に1度買い、「月」「火」「水」……と油性マジックで書き、
一日にひとつだけ口に入れる。祈るように。
冬になる前にこの生活をなんとか……。
せめて雨風凌げる場所をなんとか確保しなければ……。

ある日僕は、見知らぬ場所で目を覚ました。

朝日の眩しさも鳥の声も頬に当たる風もなかった。
真っ白な天井。カーテンに仕切られたベッドの上に僕はいた。

30分に一度、看護師が瞳孔を覗きに来る。
「死んでいないかどうか、確認しに来るのか」

総合病院の緊急治療室だった。
脳出血を起こした僕は、生と死の境をさまよい、意識だけを取り戻したのだった。

掲載日:2017年08月04日(金)

このエピソードがいいと思ったら...

この記事をお気に入りに登録

「NOWSON」代表
旅するインタビュアー美容師

中島大祐(なかしま だいすけ)

有機野菜の生産者のおもいを届けるインタビュー活動や、地球にやさしい社会・産業活動の応援(応縁)に邁進する中島大祐さん。一度は死の淵をさまよった中島さんが現在の活動に至ったきっかけとは……?

エピソード特集