彼からの返信はなかった。不安になり電話をかけても繋がらなかった。
何日待っても、彼からの連絡は来なかった。もう二度と…
その時やっとわかった。
「私…捨てられたんだ。」
私には重すぎるこの現実。1人でなんて到底抱えきれない。
親にも相談できずに、ただ私は彼への愛が憎しみに変わっていくのを感じていました。
「あなたの子供でもあるのに…」
「なぜ私だけが背負わなければならないの?」
「結局自分が一番なんだね…」
私は、憎む相手の子供を産む気になれず、中絶することを決意しました。妊娠して7週目の時でした。
そして次の受診日、私が中絶の話を切り出す前に、医師からこう告げられました。
「育っていない。」
「え?」
「前の受診から、赤ちゃん全然育っていない…残念だけど、赤ちゃんはすでに…亡くなってしまってる。」
「そう…ですか…」
医師の言葉を聞いた私は、赤ちゃんが亡くなった事実に対する悲しみよりも先に、安堵を覚えていました。
私は何をホッとしているのだろう。この子にはなんの罪も無いのに。
『私は…最低だ…』
やがて憎しみの矛先は自分自身に向いた。私は罪悪感に苛まれていきました。
「私なんて生きていても仕方ない…」
興味本位で彼のSNSを覗いてみると、新しい彼女と思われる女性との楽しげな写真が投稿されていました…悔しくて悔しくて、後悔と憎しみの先の孤独に自分自身が飲み込まれていく。
手首に刺さる冷たい刃の感触。
痛みとともに温かい液体が流れ出て、次第に意識が遠のいていく…しかし、何度繰り返しても死にきれない自分がいました。
「何も失うものなんてないのに、死ぬことすらできない私は、なんて中途半端なんだ。」
そうして自分の人生に絶望したまま、時間だけが過ぎていきました。
数日が経過し、いよいよ明日は手術の日。
私は、朝から多摩川の河川敷を1人でぼーっと歩く。
ふと見つけたベンチに何気なく座り、これまでのことをゆっくり振り返る…
掲載日:2016年10月01日(土)
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