Happy幸子 Episode1:あたしは悪魔。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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あたし、お母さんに怒られたことがないんです。

お友達と遊んで遅くなると、お友達の家ではお母さんが待っていて、心配そうな顔で「どこ行ってたん? 」なんて言うんですよね。
でも、あたしのお母さんは働いてたし、お祈りの会なんかもやってて、あんまりおうちにいないから。
いつもお兄ちゃんが迎えてくれました。たまにお母さんが出迎えてくれても、怒られることってなかったです。

通学路には、大きな鳥居がありました。
そこをくぐって帰れば早いんだけど、あたしはお母さんに「通ったらあかん」て言われてたから、
お友達がそこを通っても、あたしはそこをくぐらないようにしてました。
神社の巫女舞に誘われた時も、キレイなお衣装いいなあって思ったけど、「うちはあかんねん」て断りました。

なんか、よそのおうちと違うみたいだなあ、って感じてました。
だからって我慢した感じでもなくて、お兄ちゃんたちに守られて伸び伸び暮らしてました。
ふたりのお兄ちゃんとは年も離れてて、優しくてカッコいいの!
上のお兄ちゃんは、見えないモノが見えたりするらしくて。
あたしにはそんなのよくわかんないけど、お兄ちゃんが大好き。お兄ちゃんはあたしのヒーローです。

いつからか覚えていないけれど、看護師になることを父に勧められてきた。
なんで決められなあかんねん、と反発していた私に変化が生まれたのは、小学6年生の時。
上の兄が事故に遭って入院した。ヒーローだった兄が包帯だらけでぐったりして……ショッキングだった。
献身的な看護師さんを見てこう思った。
「看護師さんになれば、お世話できるのか。お兄ちゃんみたいな人の力になれるんや」

高校を出て看護学校に通い、国家試験を受ける直前。父が入院した。余命3ヶ月という突然の宣告。
そのタイミングで、上の兄が離婚。私のヒーローだった兄は、疲れ果てた姿で家に戻って来た。国試の2日後、父は亡くなった。
「お父さんって、亡くなるんや……」
絶対的な味方として愛してくれたお父さんの死に落ち込んだ、そんな時。

何が起きたのかわからない。
母の宗教がらみなのか仕事がらみなのか、夜逃げのような形で一時的に家族で逃げることになって。
兄と暮らし始めたら、元嫁が押し掛けて借金云々を言い出して。
自由奔放に生きてきた私には見えなかった家族の、暗い部分が、一気に表れ始めた。

「お前は好き勝手生きてきたけどな、うちはホンマに大変やったんや」
「お前は何も知らん。ワガママで、俺らに頼ってばっかりや。お前のせいで俺はずっと苦労してきた」
「お前は、悪魔や」
もともと霊感のようなものもある兄だ。その兄に、訳のわからない事を言われるようになった。

「何言うてるんや、この人は」と思っていても、シャワーを浴びるように毎日毎日言われるとそんな気がしてくる。
話したこともない好きな人の名前を言い当てられたころから、兄の霊感を真に受けるようになった。

2年で同居を解消して実家に戻ってからも、食事だけは実家でする兄に毎晩非難される。
親戚の前で、泣いて謝るまで責められ続けることもあった。
「お前は何も理解してへん。お前は人を不幸にする人間や」
「お前の旦那になる人は早死にする。かわいそうやな」
いつしか私は、兄に「こいつ悪魔やねん」と言われると「そうなんです」と頷くようになっていた。

「あたしは人を不幸にする人間なんや。大好きなお兄ちゃんも不幸になってまった」
兄みたいな人を助けたいと思って看護師になったのに、その兄を不幸にしてしまった自分。

だって、そうやないの。あたしがお兄ちゃんを不幸にしたって、そのお兄ちゃんが言うんやから。
“幸子”って……何やねん。あたしは、悪魔なんや。

掲載日:2018年05月25日(金)

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「北浜伝統ヨガスタジオ」経営者、セラピスト

Happy幸子(はっぴーさちこ)

Happy幸子という名前で女性の自立支援のスタジオを運営する幸子さん。「悪魔や」と言われ続け、その名前にもコンプレックスを抱いてきた半生だったのですが……闇にも光にも光を当てたキッカケを振り返ります。

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