川田達紀 Episode3:生きている意味を感じるために | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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大阪で1年半、静岡で1年半。
東京ならともかく、営業圏内に40軒しか病院のない田舎のMRだから、時間は売るほどある。
開業医さんの診療時間を避けて営業に行く以上、12時からの1時間と18時からの1時間とかが毎日の仕事時間。
一日に2件か3件回るくらいかな。薬局に行くこともあるけど、それもタカが知れている。

やり甲斐とかなくて、営業しているフリしてカラオケに行きまくった。夜の街にも通った。
毎日海辺で刺身定食食べて昼寝しながらノルマを達成した月もある。


「なんでこんな人生歩んでるんだろ」

鏡に映る自分。まだ20代半ばなのに、いつの間にか白髪が目立つようになっていた。
初対面で40代に見られたりする。
いわゆるブラック企業で馬車馬のように働いているわけじゃないのに。

確かに、「音楽やりたい」なんて気持ちは馬鹿にされる環境だ。
自分の書いた歌詞が見られて看護師たちに笑われることも少なくない。

それでも、めちゃくちゃ楽で、時間も自由に作れる仕事だ。
会社や上司、クライアントに理不尽な要求をされることなんかない。
それなのに、こんなに老け込んだ自分……。

「何やってんだろ」「何のために毎日こんなコトしてんだろ」

生きている意味がわからない。やり甲斐がないと、人は死ぬんだ……。死んだように生きる。体だけが生きる。
少なくとも僕はそうだった。

クローゼットのスーツを見て吐いたこともある。
年にカラオケに行った回数を数えると、270回だった年もあった。やさぐれすぎだ。


「このままじゃ死ぬ」
そう感じていたから。その時もその道に賭けることしか考えられなかった。

「マジで? オーディション、合格!? 」

いつも通うカラオケの画面に、あるミュージシャン養成所のオーディションの案内が表示された。
500円払って挑戦したら、なんと合格! 6千人の応募の中から選ばれたんだ!

……と思ったら、実は応募者全員受かるヤツで、270万払えば誰でも入れる学校だったんだけど。
ゲーム音楽を作曲して大賞を取ったとかの実績を伝えると、僕の経歴なら割引してもらえるとのこと。

最初は胡散臭いと思っていた業界。
調べてみると、養成所を出てデビューしたり手に職をつけたりしている人も決して少なくないらしい。


いまのままMRを続けていたら、きっと死ぬ。比喩じゃなくて、本当に死ぬ。
もう、体でそれを確信していたから。

「ちゃんと就職したりデビューしたりしてる人もいる。貯金もあるから迷惑は掛けない。
 6千人の中から選ばれたんだ。

 父さんにとって理解できる生き方とは違うと思う。
 でも、もうこれからは、僕の人生として生きさせてほしい」

“6千人の中から……”には、厳密には語弊があるけど。
家族に訴えて、渋々だけど理解してもらった。


25歳、いざ新天地東京へ。

掲載日:2019年02月18日(月)

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人繋ぎ音楽プロデューサー

川田達紀(かわた たつき)

“人繋ぎ音楽プロデューサー”として芸能志望の若者を支援する川田達紀さん。実は女性不信やMRなど意外な過去、経歴も。昔から人が好きだった川田さんですが、現在のような生き方に至るには紆余曲折がありました。

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