留学中に、1つ夢ができた。
日常にある当たり前のものを作品にして、自分らしく表現してみたい。みんなに見て貰いたい。
オランダはチューリップが有名だから『花』という題材でやってみたかった。誰でも作品にできそうな題材。僕の心の中に描く花は差別や格差の無い社会、様々な花達が一同に介している楽園だった。それをどうやって表現できるか。挑戦したかった。
ただ、思いもよらない壁にぶち当たった。
体は鍛えられて帰ってきたものの自分らしさの表現がうまくできなくなっていた。モザイク紳士を作った時代は、なぜ何も考えずにあんな表現ができたのかとさえ思うレベルで、どんな作品を作っても、自分らしさを表現できている気がしなかった。体と気持ちがどうやっても繋がらないような感じで、凄く悩んだ。
そんな時、公演の前に1人の男性に声をかけられた。
「山本君!僕の息子は君のファンなんだ!今日会えて嬉しいよ。君の踊り、楽しみにしてるよ!」
舞台に立つのが怖くなった…この人の息子さんはきっと、オランダに行く前の僕の作品を見てくれている。ただ帰国してからの僕にはその頃の表現力がなかった。息子さんが好きな山本君はもうここにはいない、楽屋で大号泣した。28歳…それでもやるしかなかった。
掲載日:2017年03月10日(金)
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