櫻井允秀 Episode4:経験は糧に、真実は僕のなかに。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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取り調べや裁判というのは、公正におこなわれるものだと思っていた。
だから僕は、起こったままの事、したとおりの事を話した。
詐欺だと思ったから一銭も受け取らなかったし、詐欺だと思ったから辞めた。
そのとおりの主張で裁判をすれば当然無罪判決だと、疑いもしなかった。
僕じゃなくてもそう思うだろう。それが事実なんだから。

留置場から出て、実態はそうじゃないと知った。
「怪しいと思ったから辞めた」と言った言葉は「詐欺だと思ってやっていたけど、辞めた」と調書に書かれていた。
800万円の借金は投資商品で稼いだお金で返済した、その入金記録も通帳に残っている。
けれどもそれは証拠として採用されなかった。「詐欺で受け取った金で返したんだろう」ということにされた。
週3日しか通っていなかったことはETCの記録を見れば明らかなのに、それも採用されなかった。

留置場でついてもらった頼りない国選弁護士ではなく、私費で雇った弁護士に、いろんな裏の事情を教わった。
捜査すると決めた案件の不起訴が続くと担当した警察官が降格されるから、彼らは何が何でも起訴しようとするということ。
取り調べにはシナリオがあり、真実を追求することではなくシナリオどおりに立件することが操作目的になっていること。
だから、容疑者に有利な証拠は隠蔽されるし、不利な証拠はでっち上げられる。
そんなめちゃくちゃがまかり通っているのが、現実。

でも。
逆に、その先が見たいと思った。いま僕は、人がなかなかしないような経験をしている。
だったら、とことん突き詰めたい。坂を転げ落ちかけたら、どん底まであえて進んで、その景色を見る。

僕はこれまで何をして生きてきたんだろう。道が見えないなら、これまでに歩いた道を辿り直すことだと思った。
留置場でひたすら過去のあれこれを考えた。出てからも、地元や東京で過去を考え、いろんな場所に行った。
小学校の通学路。友達と遊んだ公園。やんちゃして回った中学校。彼女とデートした場所。
「あの時ああしていればよかったのかな。あの時間違ったのかな」
いくつもの「もしも」がよぎる。それは、後悔の裏返し。

社長に逮捕状が出たということで、僕の拘留中に会社は倒産した。守りたかった社員たちは散り散りになった。
事実を言っても通らない理不尽に巻き込まれ、国家によって無実の罪を認定されようとしている。
もちろん、戦ってはいるけど。できる事はするけど。
きっと、結論は受け入れがたいものになる。事実を無視したものになる。
受け入れがたい事態を、どう受け入れるのか。その景色を見て、それをどう糧にして、これまで以上に人の役に立てるのか。

過去を辿って、3ヶ月目のある日。会社の事務所のあった場所に来た。

「違う。俺は、正しかった。いままでやってきた事は、正しかった」

何かが、ストンと落ちた。

これまでの選択がひとつでも違ったら、確かに、冤罪での逮捕も裁判も倒産も避けられたかもしれない。
だけど同時に、これまでの選択がひとつでも違ったら……この会社で仲間と家族のような濃い時間を過ごすこともなかった。

血もつながっていないのに互いを真剣に想い合い、尊敬し合い、夢や目標に向かってぶつかったり切磋琢磨したりする時間。
それは、誰が何と言おうとほんものだった。そこに至れたのは、過去のひとつひとつの選択があったから。

後悔が消えた。
僕は、間違っていない。いままでやってきた事は、すべて、それでよかった。
たとえ、その結果冤罪で塀の向こうに行こうとも。

私費で雇った弁護士についてもらって裁判をやり直し、一審、控訴審と進んで、最高裁の判決をいま待っている。
最高裁での逆転無罪なんて、ドラマや小説での話。現実には10年に1件あるかないか、だそうだ。

拘留中に倒産したせいで負った借金は1億8千万円。それを返すため、裁判をしながら会社を3つ作り、完済。
その間に仕事で知り合った女性に告白された。「4年も待てないだろう」と一度は断ったものの、付き合うことにして。
いよいよ最高裁の判決が出る直前、互いにつらくなるからやっぱり別れようと切り出した。
すると、婚姻届を持った彼女が僕の家に来た。

覚悟に打ちのめされた。逆の立場だったら、僕に同じ事ができただろうか。

この困難をいっしょに乗り越えようとしてくれるパートナーに支えられ、予定より先延ばしになった判決を待っていま過ごしている。
4年ではなく2年8ヶ月という判決になるだろう、というのが、これを語っているいまの見通しだ。

受け入れがたい出来事を受け入れてばかりの半生だった。
まだ、26歳なんだけど。そういえば、宣告された余命もいつの間にか超えていた。

でも、人のしない経験をすればするほど、多くの人の心に深く寄り添える自分になれるから。
それに、どんな経験をしても乗り越えてきたのも事実。僕は僕の力を信じている。
800万が返せたから、1億8千万も返せた。
2年8ヶ月塀の向こうにいても、出てきた未来の僕はいま以上に人のために生きるだろう。
だから、どん底にはあえて突き進む。事実を言い、そのうえで負けたらそれを受け入れる。

東京に出てきたころ、ある映画を観た。死んだ人と会えるけど、真実の答え合わせはできない、という話だ。
「答えは、自分で決めていいんだよ」
死んだ元カノへのわだかまりは、この台詞をきっかけに解けていった。
「僕への腹いせで元彼と過ごしただけで、元彼のことが好きだったわけじゃない。裏切られたわけじゃない」
と、やっと受け入れられるようになった。

もちろん、これは僕の解釈。僕が楽になるための解釈で、真実は誰にもわからない。
それでいいと思った。

そう、それでいい。
国家権力が何を事実と認定しようと、真実は僕のなかにあるから。
たとえ体は塀の向こうに行こうとも、僕の心は太陽の下を歩いている。

それを信じてくれるパートナーや家族、倒産して散り散りになったのに頼ってくれる仲間、大勢の人に支えられている。
彼らに恥じることは何ひとつない。これが、僕の人生。

参考にしてくれというには、あまりにも特殊な人生だったかもしれない。
それでも、これがありのままの僕。このKeyPageから、何か生きる希望をつかんでもらえたら、うれしいな。

掲載日:2018年12月05日(水)

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ACI PROMOTION株式会社 代表取締役社長

櫻井允秀(さくらい よしひで)

人一倍利他の姿勢で生きてきた櫻井さんの人生は、通常ではとても乗り越える道の見出せないような困難の連続でした。「何度転んでも起き上がれる」という、櫻井さんの自分自身への信頼感の根拠とは。

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