櫻井允秀 Episode2:生きる意味を見つめて。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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転売の仕事は少しずつ伸びていった。板金屋でバイトして譲ってもらった塗料を、バイクや車に塗って売る。
中学時代に読みあさった経営者の本が、いまリアルな体験と合わさって活きてくる。
さらに買い手を見つけるために人脈を増やそうと、音楽イベントを手掛け始めた。

その日もバイトだった。ゴミ袋を拾おうとかがんだ時、何かが起こった。
「!? 」
何が起こった? 痛い? 痛いなんてもんじゃない。
駆けつけた社長やバイト仲間にどこを触られても雷が落ちる。
救急車で運ばれ、いくつかの病院で診てもらった。首の骨が折れていた。首の骨って、突然折れるものなのか……。

「白血病か、ガンです」
即入院。原因は不明……「開けてみないとわからない」らしい。

首なので手術はめちゃくちゃ繊細らしく、すぐに日取りが決められなかった。
寝っ転がると寝返りで死ぬ可能性があるから、座ったまま眠る日々。

やんちゃをしながらパシリみたいに使っていた友人が、見舞いに来てくれた。
ひどい事をしてきたのに、心配して、時間を使って来てくれた。僕だったら絶対に行かないと思うのに。

いっぽうで、かなり慕ってくれていた後輩たちは電話しても折り返してこなかったりする。
かわいがっているつもりでも、実は表面的な付き合いだったんだ。

1ヶ月入院して、2週間後の手術が決まって。
万が一の事があっても訴えないと誓約書を書かされる、エグいやつだ。

2週間。2週間後に、もしかしたら僕は死ぬかもしれない。僕の命は、あと……。
これまでの人生を振り返った。この人生で僕は、いったい何をしてきたんだろう。

2週間後、もし僕が生きていたら。
――恩返しをしよう。

やんちゃして迷惑を掛けてきたのに毎日見舞いに来てくれる両親。人としてどうかと思う事をしてきたのに来てくれた友人。
僕を支えてくれるこの人たちに、僕は恩返ししなきゃいけない。もし、僕の命が2週間後もつながるものなら……。

麻酔で遠のいた意識を取り戻すと、死んだおじいちゃんが真っ暗な草原で手招きしていた。
小川が流れていたから、またいでお祖父ちゃんのところに行こうとした。

その手を誰かがつかんだ。

瞼を上げると、母さんが手を握っていた。いまのは、三途の川ってやつか……。

術後、担当医に言われた。
砕けた骨は取り除いて腰の骨を移植したものの、神経の絡んでいる腫瘍だけは取れなかった。
その腫瘍を除く手術をすると、植物状態になる可能性が低くない。
逆に、腫瘍をそのままにするなら、2年くらいでもう一度爆発して死ぬかもしれない。

植物状態になるリスクを負って腫瘍を完全に除去するか、近い将来死ぬリスクを負って腫瘍を抱えて生きるか。

「取りません。このまま生きます」
躊躇はなかった。僕は、生きていたら恩返しをすると決めて手術に臨んだんだ。
植物状態になってしまったら、できる恩返しもできなくなる。
だったら、2年なり何年なり全力で生きて、恩返しして、その時を迎えよう。

誰かのために生きるにも、お金がないと始まらない。それまでやってきたビジネスを拡大しようと動き出した。
半年くらいそうして働いたか。2年で死ぬかもしれないことを、付き合っている彼女に伝えた。

「知ってるよね。私、結婚したいの。死んじゃう人とは付き合えない」

いっしょにいてくれないのか。僕が死ぬとわかったら、その傍にこの子はいてくれないのか。

何かが切れた。仕事する気も起きなくなり、家に引きこもった。
幻覚が見えるようになった。部屋にこもっているのに、壁から友達の顔が覗く。目を閉じても消えない。
精神科に行って出された薬は、母さんの意見で飲まなかったけど。
このまま、どうしたらいいんだ。何のために生き延びた命なんだ……。

「入るぞ」
父さんが部屋に入って来た。
「外にも出ないで、お前何やってんだ? 」
責めるふうでもない。不登校していた時と同じだ。父さんに背を向けたまま、僕は心のうちを語り始めた。

「俺さ、死ぬじゃん? 彼女にも、死ぬ人とは付き合えないって振られた。生きてる意味、わかんなくなっちゃったんだよね」
「なあ、お前、こっち見てみろよ」

壁を向いていた僕は、体を動かして父さんに向き直った。
「いま何が見える? 」
「何って……いや、父さんじゃん」
「そういうコトよ」
何でもないように、父さんは言う。

「見方を変えちゃえば世界って変わるわけよ。壁見てたら壁しか見えない。後ろ向いたら俺が見える。
 いつ死ぬかって、みんないっしょじゃん。俺だって明日死ぬかもしれない。
 2年間でどうにかしなきゃとか思わなくていい。みんな明日死ぬかもしれないって思えば、今日自分にできる事をするだけよ」

一瞬ですべてが理解できた。ほんの一瞬で意識を失い、死んでしまった元カノのこともあったから。

エネルギーが湧いてきた。生きる意欲、働く意欲、稼いだお金で恩返しをする意欲。

「東京に出よう」
残りの人生、まっさらなところで始めよう。
こうして僕の人生は次のステージに移ることになる。

掲載日:2018年12月05日(水)

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ACI PROMOTION株式会社 代表取締役社長

櫻井允秀(さくらい よしひで)

人一倍利他の姿勢で生きてきた櫻井さんの人生は、通常ではとても乗り越える道の見出せないような困難の連続でした。「何度転んでも起き上がれる」という、櫻井さんの自分自身への信頼感の根拠とは。

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