木島タロー Episode3:道が開けた合図は「楽しい」という気持ち | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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言われるままに教えられた高校へと向かった。
ゴスペルを人に教えたことなんかないが、とにかく、ここまで来たからには何かしらやらなきゃならない。

「こんにちは、木島タローです。えっと、じゃぁ……まあ、とりあえず歌ってみようか」
まずは生徒たちに歌ってもらい、そのコーラスを聴きながらどうしたら良くなるかを考えた。
思いつくままに、ここ、こういう風に変えてみて、と少しずつアドバイスをしていく。
すると、歌うごとに、彼らのコーラスがみるみる良くなっていく。
良くなっていくことが自分たちでもわかるのか、彼らもとても嬉しそうだ。

その時僕は、はっとした。

「あれ……僕はどうしてこのコーラスを教えられるんだっけ?」

そうか……、考えてみれば教えられないわけがない。
中学高校ではハーモニーに夢中で合唱三昧、音楽大学では教育専攻。
大学でもゴスペルの研究を続けていたし、卒業後は週4で黒人教会でのピアノ伴奏を続け、
そこで出会って3年間つきまとった師は米ゴスペルのトッププロデューサーだった。この音楽のために英語さえマスターしていた。
それなのに、なんて馬鹿げたことだろう! 僕は自分がこの音楽の専門家だということに気づいてもいなかった。

「僕はこの音楽をすごくうまく教えられる」何より、教えている瞬間を楽しんでいる自分に気づいた。

ずっと、自分はシンガーソングライター以外の仕事は楽しめないと思っていた。
でも思い起こせば、シンガーソングライターとして生きていこうともがいていたこの10年、楽しかった瞬間なんてなかった。
そんなことにも気付かず、ただ「シンガーソングライターになる」という、どこかで人から借りた夢にしがみついていた。
僕はいつの間にか「他の誰か」になろうとしていたのだ。

「お前、ゴスペルの専門家なんだろ」

電話をくれた友人のセリフが蘇った。
どうして今まで気づかなかったんだろう。

やっていて楽しいという当たり前の、でも失われていた感覚。そのときめきの中に、確かに「僕にしかできない音楽」があった。
まるで壊れていた回線が直ったみたいに、僕の指導やピアノが必要だという電話がガンガン鳴り始めた。
その冬には僕はプロとして自立し、保険会社を辞めていた。

掲載日:2017年10月27日(金)

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Power Chorus 協会共同代表
在日米軍契約ゴスペルミュージシャン

木島タロー(きじま たろー)

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