川田達紀 Episode1:コミュニケーションの達人……? | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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母さんは明るくて友達が多い。スーパーに買い物に行って帰るだけで、10人ぐらい友達になっていたりする。
そんな母さんみたいに……なんて気持ちがあったわけじゃない。気づいたら僕もそうなっていた。
人と仲良くなるのはもちろん、人を観察しているだけで楽しい。

転校が多いせいもあると思う。
生まれは岩手県で、そこでもたくさん転校した。愛知県に引っ越した時は言葉の違いに戸惑った。

「仲良くなるためにどうしたらいいかな」

校長先生は全校集会でみんなに挨拶する。校長先生と仲良くなればいいかも!
そう考えて、校長室に遊びに行ったり、校長先生にイタズラしたり。
結果、どの学校でもたくさんの友達が出来た。みんな僕のことを知っている。

多少いじめとかがあっても、全力で挑んでいくから。
“弱い者いじめ”したい奴らは、相手が思いのほか強いとわかると何もしてこなくなるんだ。


友達と過ごすのが楽しい。それと、音楽がめちゃくちゃ好きだ。
授業で歌うとほめられる。上手いってことなのかな?
小1の時に初めて篠原涼子や槇原敬之のCDを買って、それからずっと歌っていた。

もう何校目かわからない転校先ですぐに友達を作ってワイワイしていたら、先生に声を掛けられて。
「文化祭で、前で歌ってみない? 」
小5と小6の文化祭ではステージで歌って拍手を浴びた。

新しい環境で誰と気が合うか、誰が親友になるか、なんてわからない。
だから壁なんか作らず飛び込んでいく。そのなかで自然と気の合う人とは過ごす時間が増える。
友達を作るなんて、シンプルだ。

そうして出来た友達と、転校でまたすぐに会えなくなるのが寂しかったけど。
また次の環境で、会ったことのない誰かと仲良くなれるから。

まったく同じ人なんてひとりもいない。それをひとりひとり知っていくのが楽しい。
観察しているだけでおもしろい“人”という生き物。まして、そのひとりひとりと仲良くなる醍醐味といったら!

だから、友達の少ない奴と遊ぶ時に、ほかの友達を連れて行って紹介したりして、世話を焼く。
友達の少ないまま仕方なく、妥協して生きるなんて、つまんないじゃん。


女の子みたいな容姿も手伝ってか、環境が変わってもすぐにチヤホヤされる。
どんな場面でも、誰とでも、仲良くなろうと思えばなれる。
でも、周りを見ると、そういう人ばかりじゃないから。
つまり、僕は特別コミュニケーションが上手いってことなんだろうな。そう思っていた。

中学2年に上がった。クラスに、みんなに嫌われている子がいた。
明らかに嫌われるような事をしている。傍から見ていて、いじめられるのも道理。
相手が不快になるほど人を見つめたり、モゾモゾする癖があったり。しゃべり方もとにかく気持ち悪い。
「友達は欲しいけど、勇気なくて……」とか言って。

意味がわからない。
明らかに嫌われるようなそのひとつひとつの行動をやめれば、友達なんてすぐに出来るだろうに。

そいつのことが好きとか、大切とかじゃない。クラスにそういう存在のいることが、ただただ気になった。
気になりすぎて、放っておけなかった。

「なんで嫌われてるか、なんでわかんないの? 本気でわかんないの? 」
「……」
「わかったよ。じゃ、俺が試しにやってやるよ、お前のやってる事を。
 友達の多い俺がこれからどうやったら嫌われるか、よく見てな。
 それが、お前の嫌われてる理由だから」

自分で自分のことが客観的に見られなくても、他人の言動なら冷静に見て判断できるはず。
僕が体を張って同じ事をやってみせたら、さすがにわかるだろう。
自分が理不尽に嫌われているわけじゃなくて、理由があって嫌われているんだってコト、
その理由を自分で作っているんだってコトが。

そうして、わざと彼のモノマネをした。
女友達が多いので、女の子相手に彼のやっている事を真似てみせた。

絶対に嫌われるようなイヤーな見つめ方をして、体の動かし方もモゾモゾと自信なさそうにして。
相手の話に合わせることもしない。
「なんでそんな話すんの? 」「それ何の意味あんの? 」
空気の読めない奴を演じた。
上履きを投げつけたこともある。


中学でもチヤホヤされていた僕は、1ヶ月で見事に嫌われた。
にもかかわらず、もともと嫌われていたそいつは、何も学習しなかった。愕然とした。
「人がやってんの見ればわかると思ったのに……わかんないんだ……」

わからない奴はもう仕方ないから。
失った信用や好意を取り戻そうと、モノマネをやめて元どおりに接した。

……んだけど。


「キモいんだから、やめてよ」
「話し掛けないで」

一度失った信用は、どんなに努力しても取り戻せなかった。
わざとやったことなのに。
あいつのためにわざわざやってやっただけで、彼女らに対する悪意も何もなかったのに。

好きな子がいたので、3年生に上がったある日、体育館裏に呼び出して告白しようとした。

その子は来てくれた! あとは、気持ちを伝えるだけ。
はやる気持ちを抑え、深く息を吐いて彼女を見つめる。
「好きだ」と口を動かそうとした、その時。


その子の後ろから女の子が大勢出てきた。
「何やってんのよ」
「あんたキモいんだから、あたしたちに近づかないでよ」
「ね、行こ行こ」

驚いて、好きな子の目を見た。
こいつらが勝手についてきたんだよな、君の意志じゃないよな……そう、目で訴えると、


「キモい」

そのまま僕は置いて行かれた。気持ちを伝えることすらさせてもらえなかった。


何やってんだ、僕は。

コミュニケーションの達人だと思い込んで、いじめられっ子のためにわざと心にもない嫌な事をして、
本当に嫌われて、信用も好意も取り戻せなくて。
あげく好きな子にキモいとさえ言われて。

「どんな理由や目的があっても、人の信用を失うような事しちゃいけないんだ」
大きな代償と引き換えに学んだ教訓だった。

掲載日:2019年02月18日(月)

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人繋ぎ音楽プロデューサー

川田達紀(かわた たつき)

“人繋ぎ音楽プロデューサー”として芸能志望の若者を支援する川田達紀さん。実は女性不信やMRなど意外な過去、経歴も。昔から人が好きだった川田さんですが、現在のような生き方に至るには紆余曲折がありました。

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