秋谷慧 Episode3:人を観察するということ。 | KeyPage(キーページ):起業家の「人生を変えたキッカケ」を届けるメディア

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大学ではもちろんマジックサークルの扉を叩いた。
すると……

「え、クローズアップマジックはやらないんですか?」
「やらないわけじゃないけど、ステージマジックが中心なんですよ」

先輩方の発表を見せてもらった。
スケールがでかい。傘を出したりハトを出したり……こんなコト、大学生にできるんだ!?
「僕のやってきたマジックって、狭かったんだな!」
新鮮なエッセンスを吸収するためにも、迷わず入会した。

ステージ中心のマジックサークルでは、飛び交うアイディアが斬新で。
お客さんをどう楽しませるか、技と技のつなぎは、とあれこれ意見を出し合い、切磋琢磨する。

とはいえ、カードを中心としたクローズアップマジックは6年やってきた僕だ。
クローズアップには自信がある。ステージマジックを学びながらも、クローズアップでは一廉の存在になれるんじゃないか。

「ケイのマジックはさ、ワザに頼ってない?」
同期のハルキの言葉は、そんな僕の心に刺さった。
「技術より、いかにお客さんを楽しませるかのほうが大事じゃない?もっと人を見たほうがいいよ」
「……そうだね」
それは、そうかもしれない。そうかもしれないけど。

差し障りのない相槌は打ったものの、内心では反発していた。
「俺はお前より長いことマジックやってきたんだよ……」
確かに、彼の言う事にももっともなところがある、と薄々感じながら。

心のなかで自分を正当化しようとしながら、同時に、
「俺って……プライド高いんだな」
冷静に観察する自分もいた。

考えてみれば、それはそうかもしれない。
子どものころから人と比べられて、何かで一番を取っては安心し、それが崩されてはへこんできた僕だったんだから。

コトは続くものだ。ハルキにズバリ言われた翌日、人前でクローズアップマジックを披露する機会があった。
ソツなくこなした僕に、一番近くにいたお客さんは言った。
「ワザはうまいんだけどね。なんか足んないよね」

考えるより先に口が動いていた。
「なんか足りないって、何ですか?何が足りないんですか?」
「うーん。心がない。自分のワザ見せて満足してる感じ。それって、ジコマンじゃない?」

涙が止まらない。心外だからじゃなくて……そのとおりだったからだ。

ハルキとお客さんが同じコトを言ったのは、偶然じゃない。そう言われる原因が僕にあるからだ。

冷静に考えると、当たり前だった。
これまで18年間、ほんの数人を除いて、心を開いて人と付き合ったり人を観察したりするというコトを僕はしてこなかった。
人の気持ちを考えるという経験が、僕には圧倒的に足りていなかったんだ。

悩みながらも自分なりに交友関係を広げて、もちろんマジックも続けて、2年目。
なんだかんだクローズアップは僕が随一だったので、サークル内のクローズアップマジックの責任者を任されることに。
新歓の時期にレクチャー会を開くんだ。
毎週1回10人から20人くらいの新入生に、クローズアップの技を10個教え、興味を示した子には入会を促す。

トータル100人は教えたか。それだけ教えると、ひとりひとりの違いが見えてくる。

ある子はざっくりとしたコトがわからないと言い、また別の子はカードを置き方なんて細かなところに疑問を持つ。
やり方だけ教えればあっさりトライしてみる子もいれば、仕組みを教えてやっと納得する子もいる。
手の癖を直してあげたほうがイイ子もいれば、自発的に考えるから細かく教えないほうがイイ子もいる。

「ケイは、もっと人を見たほうがいいよ」
こういうコトだったんだ。僕は、本当に人を見ていなかった。
でも、ちゃんと相手を見るように心掛ければ、こうして喜んだり満足したりしてもらえるんだ。

そんな折、ハルキが声を掛けてくれた。
「最近、ちゃんと見てんね。イイじゃん」
そんな変化に気づいてくれるほど、ハルキは人のコトを観察しているんだな。

偶然にも通学ルートが同じ。ハルキと、たくさんの時間を過ごすようになった。
もともと野球部だった彼は、あるプロマジシャンのステージを見てマジックを始めたという。
そのマジシャンは、技術以上に身なりやお客さんに与える印象のほうを重視していたそうで。
エンターテインメントとしてのマジックを、ハルキはやってきたんだ。

一方僕は、どちらかというと専門的にマジックを追究してきたタイプだ。両極端。
ハルキと話しながら、僕もだんだん、エンターテインメントとしてのマジックという捉え方のほうが座りがイイかなと感じるように。
もしかしたらハルキのほうにも、専門的にマジックをやってきた僕から影響を受けるところがあったのかもしれない。

アルバイトで家庭教師をしていることもあって、ふと高校時代を思い出した。
「家庭教師とマジック……って、そういえば前に」

自分がマジックをやるだけじゃなくて、人にマジックを教えたい。
マジックをきっかけに大きく変われた僕。こんなに可能性を秘めたものを、もっと多くの人に知ってもらいたい。

新歓のレクチャー会とは別に、カードマジック講座を始めた。
人が来ないのであちこちのマジックのイベントに参加して、業界の方に顔を知ってもらうようにして。
マジックの大会にも出場した。その縁でマジックバーやレストランでのお仕事を頂くことに。
普段の生活圏では出会えないような人と接することで、教養が広がったりマナーが身についたりした面もあったかもしれない。

そんなある時。

「あなたも講師になれます」

いろんなジャンルの専門家を講師として募るウェブサイトを見つけた。オープンしたばかりらしい。
各ジャンルのプライベートレッスンを展開する、講師と生徒のマッチングサイトだという。

募集一覧のなかに、ドンピシャな一文を見つけた。
「手品講師募集」

これが、次の挑戦への第一歩だった。

掲載日:2018年09月04日(火)

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マジックインストラクター

秋谷慧(あきや けい)

マジシャンであり、マジックを教えるインストラクターでもある秋谷慧さん。いじめられた小学時代を経てマジックに出合った秋谷さんは、その後マジックをとおして人と関わることを学んでいったのでした。

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